ものと暮らし

文/中地 大介

product, culture

水の音を聞く

新しいものを手にしたとき、その「もの」との付き合いの始まりと同時に、「こと」が始まる。


これまでになかった暮らしのシーンが始まったり、自分の中に新しい感覚が生まれる。ものから、ことが始まる。


僕の最近の「ことはじめ」も、きっかけは山形で手に入れた鉄瓶だった。


秋に山形を訪れたときに、鉄瓶を作る鋳物職人とお話する機会をいただき、初めて自分でも使ってみることに。鉄瓶でお湯を沸かして、白湯で飲んだり、お茶を淹れたりしている。


鉄瓶1.2L 2015年2月発売開始予定/Pint!



鉄瓶から生まれた僕の「ことはじめ」は、「水を聞く」こと。


鉄瓶を火にかけると、熱伝導の良い鉄はすぐに熱くなる。鉄に包まれた水に熱が伝わり、だんだんと水温が上がってくる。沸騰に近づく一歩手前で、水の音が変わる。鉄瓶から聞こえる音は、柔らかいような硬いような、優しく強い音。その音がなんだか不思議で、いつからか気になり、耳を澄まして聞くようになった。


最近では、お湯が沸くまでじっと鉄瓶の前に立っていたりする。換気扇のかわりに窓を開けて、白い湯気を眺めながら、水の音を聞いている。今までにはなかった時間。心地よくて、贅沢な時間だ。


皆さんにも、「もの」から生まれた「ことはじめ」、振り返ってみると意外とあるのではないでしょうか。こんな風に、力まずに自然と始まる「こと」も素敵だと思います。今年も、楽しい出会いや始まりがありますように。